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zoom RSS 「花の生涯」〜よみがえる歴史小説

<<   作成日時 : 2011/05/12 00:18   >>

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 これは完全に大人向けだ。

 やっと手に入れた舟橋聖一の「花の生涯」(祥伝社文庫)を読み終えて思った。官能的な描写も多く、大河ドラマ第一作「花の生涯」も大人を想定して作られていただろうと想像する。

 村山たかを演じるのは淡島千景。この奔放な女性をいかに演じたのか見たいと思えど、今はかなわぬ夢である。志津役の香川京子は想像がつく。ぴったりかもしれない。正室の昌子が八千草薫。これはどうだろうか。気品は十分だが、つっけんどんなイメージは薄い。小説では心通わぬ夫婦役だったが、ドラマでは関係を変えているかもしれない。里和役は河村有紀 。直弼の子を産んだ側室で生涯かかわりをもつ重要な役どころだが、顔が浮かばない。唐人お吉役が朝丘雪路。これは分かる。合うだろう。水戸の女密偵、黒沢トキ子が山岡久乃 。これもよさそうだ。雪野太夫が岩崎加根子。「よみがえる大河ドラマ」で拝見したが、この役者さんは知らない。

 男優でいくと多田一郎が西村晃。うーん、これははまり役だろう。この人物のヌメリ感は西村晃なら出せると思う。その子息、帯刀が田村正和。これもぴったり。水戸斉昭が嵐勘寿郎。大物をもってきてますな。幕臣はたくさんいるが、これといった個性的な役柄で登場しないのでイメージしにくい。Wikipediaを見ると石坂浩二も「花の生涯」に出演していたとあるが、なんの役だったのだろう。

 おもしろかったのが米国総領事のハリスを久米明、ヒュースケンを岡田真澄が演じていること。最近の大河でこそ外人をほんまに起用しているが、昔は日本人が演じていたのだ。外人が外人の役で出てきて、母国語をしゃべり、字幕が出るようになったのは最近のことだ。

 井伊直弼は維新を是とする立場から描かれると敵役になる。しかし彦根での人気は今でも絶大である。当時、開国に反対していたのは薩長の下級武士で、その薩長は異国打ち払い戦で敗れてのち開国に転じるのであるから、井伊の先見性は高く評価されてよいはずなのにそうはならない。ここは開国を軸に考えずに、井伊暗殺は佐幕か倒幕かの軸で考えるほうがよいのだろう。薩長の攘夷だって根にあるのは外国との交易を幕府に独占させない、という戦術レベルの言いがかりに過ぎない。「ララアを殺された」シャア・アズナブル、ならぬ薩長はついに安政の大獄の主犯、井伊直弼を許すことはなかったのである。

 舟橋聖一の「花の生涯」はそういう史観からは離れている。きわめて人間臭い井伊直弼が描かれている。作家本人はあえて異説を立てるのではなく、イメージのままに書いたと述べているが、これは「樅の木は残った」の原田甲斐、「栄花物語」の田沼意次と同様、世で言われる悪役をひっくり返す評価転換小説のひとつである。わしが学校で習った田沼意次はひどい評価だったが、NHKの制作した「天下御免」に登場する田沼意次は非常に開明的な人物として描かれておりわくわくしてドラマを見ていたものだ。

 ひとの価値を評価する難しさである。農本主義という徳川幕藩体制を是とすれば、資本主義の萌芽に目を付けた田沼意次は悪人となるが、近代資本主義を是とすれば意次は早すぎた開明主義者ということになる。舟橋聖一の視点はまことに確かであり、それは当時の藩の中枢を、頑迷なまでに臆病で保守的な巣窟として看破している点ではなかろうか。

 吉田松陰、橋本左内の処刑について舟橋はこう書いている。

 〜これまでの書に拠ると、吉田や橋本は、その死に臨むや、神色自若であったと書いてあるのが普通である。然しこれは、吉田や橋本を英雄として、崇拝するのあまりだ。伝えられる吉田橋本は、ややもすると神様に近からんとしているが、実際はそれほどでもなかったようだ。人間、死に臨んで従容たれというほど、難題はないだろう〜

 さらに長野主膳の思いを借りて、こうも書いている。

 〜吉田や橋本は、直接、長野が逮捕したのではなくて、寧ろ、長越の藩当局が、彼らを人質に提出して、自己保全の道を護ったにすぎない〜

 こういう見方だってあるだろう。

 司馬遼太郎とは違う世界がここには広がっている。

 昭和27年に連載された新聞小説ではあるが、舟橋は幕末に託して戦中戦後であっても変わっていない日本の今を描いていたのかもしれない。「花の生涯」は、どうして埋木舎のように逼塞してしまったのか、不思議に思うほどの歴史小説なのである。

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